コロナと同時流行のインフルエンザ 診療… 政府はオンライン推奨、専門家、医師会は「対面が原則」

 新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行を想定し医療機関の逼迫を避ける対策として、政府は重症化リスクの低い人がインフルかどうかの診断を受ける際に、電話やオンライン診療を活用するよう呼びかけている。ただ、インフルの検査をしないため、別の病気なのにインフルと医師が誤って判断し、重症化する懸念がある。専門家や医師会は「基本的には対面診療が原則だ」と警鐘を鳴らす。(榊原智康、三宅千智、加藤健太)
 政府が13日に発表した対策によると、同時流行では最大で1日当たり新型コロナ45万人、インフルエンザ30万人の計75万人の患者が出ることを想定。高齢者や基礎疾患がある人、妊婦、小学生以下の子どもは重症化リスクがあるとし、熱を出した場合は発熱外来を速やかに受診するよう促す。
 一方、健康な中学生から64歳は、原則として直ちに受診することは控えるよう協力を求める。まずは新型コロナの検査キットで感染を調べる。インフル用のキットは市販されていないため、コロナが陰性だった場合は電話やオンラインなどで診療と治療薬の処方を受ける。ただ、オンライン対応ができる医療機関は限られるため、かかりつけ医などでの対面受診も可能としている。

◆医師が診断誤り、重症化する恐れも

 国際医療福祉大成田病院で感染制御部長を務める松本哲哉主任教授は「感染経路がはっきりしない人で、熱があったり、筋肉痛があったりするだけでインフルと医師が診断し、間違って抗インフル薬を処方するケースが出てくる」と話す。
 例えば、インフルと似た症状の細菌性肺炎だったりすれば、処置が遅れ、重症化する恐れを指摘する声もある。
 東京都医師会の尾崎治夫会長は19日の記者会見で「政府の対策は、流行の第7波のピークを上回るような状態に陥った時の話だ。インフルは検査をするのが原則だ」と訴えた。日本感染症学会も20日にホームページで公表した文書で「基本的には対面診療が原則」とし、「電話・オンライン診療で判断に迷う場合、重症化を否定できない場合には(対面での)受診をお願いする」と医療機関向けに注意点を挙げた。

◆体制不十分、自己検査からでは服薬遅れる

 オンライン診療は体制面でも課題がある。厚生労働省によると、オンライン診療に対応できる医療機関数は約1万7000(昨年12月末時点)で、医療機関全体の約15%にとどまる。
 タミフルなどの抗インフル薬は診断後に薬局から配送などで受け取るが、発症後48時間以降に服用しても十分な効果は期待できない。松本教授は「発熱後にコロナの自己検査をやり、オンライン診療を受けて薬を受け取って飲むまでを48時間以内にやるのはかなり難しい」とみる。
 政府が打ち出した同時流行の対策を始めるタイミングは地域ごとの流行状況を見て、自治体が判断する。厚労省は都道府県に対し、11月中旬までに医療体制の整備計画をまとめるよう求めている。
 都は17日に専門家を交え、対応を協議した。都の担当者は「国が打ち出す方針は『バラ色の世界』に見える。オンライン診療は対面より手間がかかるとの意見が出た」と話し、現在4800ある発熱外来の拡充を重点的に進めるという。

◆厚労省は3段階に分け、国民に呼び掛け

 厚生労働省は同時流行について、感染状況に応じて3段階に分けて対策を呼びかける方針だ。具体的には感染状況が①落ち着いている②感染者の増加が見られ、同時流行の兆しが見える③同時流行により医療逼迫が懸念される—に区分。段階が進むにつれ、発熱外来は重症化リスクが高い人への対応に重点化させていく。
 ①では、新型コロナとインフルの両方のワクチン接種を促し、コロナの検査キットと解熱鎮痛剤を事前に用意するよう呼びかける。②では、重症化リスクが高い人には速やかに発熱外来を受診してもらい、それ以外の人には「健康フォローアップセンター」の活用に協力を求める。③では「医療機関が速やかに受診できない状況が発生している」ことを周知し、②での対応を強化する。
 厚労省は10月中に対策をまとめたリーフレットをつくり、国民への周知を図っていくとしている。